ザン
依
誰も知らない月の海で
明日、人魚が歌います
僕らが生まれた日のことと
サボテンが
初めて棘をもった日のこと
空爆の空を見上げた最期の視界や
ゴルゴダの丘の話
戦士たちの昨日の食事と
輪廻する輪から外れた果ての喜びと寂しさも
人魚は歌います
光も届かぬ海の底でも
眼は無くとも命を奏でる魚がいること
ゆっくりとした呼吸のリズムで
全ての子どもは愛されるべきであるということと
生きることは論理そのものであり
神さまは何も期待していないということも
明日、人魚は歌います
あなたにとっての明日が良いものであるようにと
人魚は一人ぼっちです
でも、不幸せではないのだと言います
サボテンの根っこが
この星のはじめに繋がるみたいに
全てがそれだから、と笑います
だから、人魚は寂しくはないのでしょう
その意味を
僕らが知るのは何百年も先のことなのかもしれませんが
あなたがもし
明日何か優しいものを見つけられたら
そのとき人魚が歌っているのだと思います
何も思い出さなくていいから
少しでいいから
笑ってください
そっと歌を
歌ってください