瓦礫の上で行くあての無い祈りが始まる
ホロウ・シカエルボク








暴動の幻想の中で肋骨をいくつか失った、痛みは果てしなく体内を駆け回る、霞む視界の片隅に紛れ込む原色の感情、コンクリの壁にもたれた時の洒落たボディのアジテイターの薄笑い、誘ってくれるのはお前か、ふしだらな死神のように、俺の気分を河岸まで連れて行ってくれるのは?バン、バンとオートマチック、肉を削ぐ熱い鉛、かすれた声の悲鳴、すでに死に犯されているのか
火薬が静かに肉を焼く反応の鋭さ、声が無くなるのはあっという間さ、傷みを知らずに生きる者の末路はみんなみじめなものなのさ、撃ち尽くしたのか、ええおい、アジテイター、撃ち尽くしたのか?装填しておけ、装填しておけよ、お前には他人の死を笑うまでの覚悟は無いのかい、その、コンクリートまで踏み抜けそうな強烈なブーツで、この傷口を踏み抜いてみろよ
肉の焼ける感触を俺は知っている、俺は撃たれなかったものたちを笑うことが出来る、違うか?この体内から流れ出た血液にはせめてそれぐらいの権利を与えてみたってかまやしないだろう?地に帰る血液の虚しさをお前は知らないのか、枯れても散ることを許されないような花弁のような虚しさのことを何も?どれだけの肉塊を撃ち抜いてきた、どれだけの肉塊を撃ち抜いてきたんだ、その振動によってお前が得たものは果たしてスマートにポイントを捕える、たったそれだけの瞬間なのか?
地面の瓦礫に腰をついた俺のこと、正面の窓から見つめている子供の目がある、それが生きているものの目つきだとはどうしても思えず、痛みをこらえながらそのぼんやりとした光の中を覗きこんだ、アジテイターは役目が終わったみたいにじっとしてこちらをただ眺めていた、窓越しの子供の目に似ていたが、決定的に違うところがあった、生を知っている目つきと死しか判らなくなった目つき、生と死のふたつの概念に俺は見張られていた、命は、どこへ流れてゆくのだろうと結論を先送りにするように俺は考えた、それは決して俺が知りたいと願っていたような事柄ではなかったのだけれど
闇にまどろむような意識が見せる景色は深海に潜り込んだかのような孤独だ、そんな孤独を享受してしまってはもはや何に対しても明確な答えを導き出すことは出来ない、だけど俺は孤独を忌むべきものとして捉えたことは無いけれど、深海に潜り込まれたような孤独と撃ち抜かれた脛の感覚は酷似している、だけどそんな気付きを得ることがいったいどんな効果をもたらすのだろう?俺は傷みを忘れてほくそ笑む、手に入れる気づきは結局、それと欲していたものでは決してないのだ、深海に潜り込むような孤独とはまさにそんな蓄積から生まれてくる生態ではないのだろうか?
窓越しの子供の目は少し微笑んだように見えた、窓越しの子供の目、あいつは何かを理解したのだろうか、瓦礫に過ぎなくなった幸福の梁の下で、目の前の傷を受けた男の脳裏をよぎった孤独の仮定について、なんらかの感触をあいつは得たというのだろうか、静かにこちらを見たままのアジテイターとは明らかに違う動きがその目の中にはあったのだ、そいつの目を見返す、脂汗とも冷や汗とも呼べなさそうな汗が目の中に入り込む、消えそうな世界の中でじっと目を凝らしていた、子供と、アジテイターは僅かな瞬きすらしないみたいに見えた、何故だ、それが俺とやつらの見つめているものの違いなのか
子供の目が持っている空気について知ることが出来るか、その網膜が何を貫こうとしているのか、その先を追ってみたことがあるか?俺には理解しがたい、知っているのかいないのかまるで読めないその形態、知らな過ぎるということは知りかけたものを惑わせる、戻って来いと叫ぶ近しきもののようだ、汗を拭ったけれどそれは余計な不具合をいくつか増やしただけだった、イラついたところで俺の懐にはもはや撃つべき銃も無く、どこで落としてしまったのだろうと瓦礫の先を睨むも壊れたものの中にそれが隠れているはずもなかった、そもそもの成り立ちがまるで違うのだ、壊すためのものと壊れるためのものでは
次の銃弾を待つべきなのか?何も手は無かった、いつもそうだった気がする、思えばいつも手など無かった、丸腰でいながらそうじゃない振りをしていた、拳骨を食らわされても痛くないような振りをする、あるのはいつもそんな覚悟だけだったんだ、だけど、もう呪うことは無い、もう呪うことは無い、そんな自分を、呪ったりするような気持はもう長いこと持ったこともない、もうそんな歳じゃない、いつまでもそんなシンドロームに首を突っ込んでいられるような、そんな甘い世界はどこにもないはずだぜ、丸腰であるのならどんな武器もひけらかしてはいけないのさ、それが戦闘をおろそかにしたものの責務ではないのか?ひどく身体が冷えてきたような気がするけど怖がりはしないよ、ひどく視界が霞んできたけど怖がりはしない、致命傷でさえなければ不幸なことでは無いんだ、致命傷でなければ
それにしてもあの子はひどくはっきりとした視線を持っている、死しか判らなくなった視線、それが見つめる半端な生、それは好奇心なのか、渇望なのか、呪詛なのか?はっきりとした、だけど決して距離を詰めてくることはないその視線、恐れるには確か過ぎる、恐れるには確か過ぎるのだ、痛みが骨を揺さぶる、アジテイターはどうした、アジテイターは?子供の視線を気にしすぎてしまう、あいつはなぜ立ち去らない、まるでまだ何も終わっていないと言いたげに、新しい鉛を取り出すでもなく、強烈なブーツで同じ大地を踏みしめ続けている、暴動の幻想、幻想なのだ、為し得ることが叶わなかった暴動の宿命など、すべて





新しいマガジンのスタッカート、チャンバーが引かれて、冷えた銃口のキス、勿体ぶりやがって……射出口にクロスを添えてくれ、得体の知れないものの為に










祈るから









自由詩 瓦礫の上で行くあての無い祈りが始まる Copyright ホロウ・シカエルボク 2008-12-29 22:19:42
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