名前
ろくましん

祭壇に引っ張り出された若き姦婦は
蔑みと好色の視線に晒された
人々の前で命ぜられることを演ずるだけで
高額の報酬を手に入れることができた
彼女は選ばれた者が感じる高揚感に陶酔したが
自分の支払った代償の重さは知らなかった

+

彼女には「売女」の名前が貼られた
誰とでも寝る女、セックスでお金を稼ぐ女
男達は彼女をその名前で侮辱しながら
彼女を求め、その肢体に興奮した
精液に濡れる指で何度もREPLAYのボタンを押した
何千万の男から何億回も犯された

+

彼女は次第に自分に向けられる視線が
変化していることに気がついていた
どん底から這い上がった成功者として
それは、「蔑み」から「羨望」に変化していた
彼女は期待通りに新たな役回りを見事に演じた


+

しかし、「売女」という名前は
人々の頭から消えることはなかった
醜悪な果実ほど甘美なもの
人々は好んで彼女の過去を口にし
子供から老人まで誰もが知ることになった

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彼女は考えた
拍手と歓声の中に潜む
「売女」という名前は鼬の眼
永久にそれから逃れる術はない
ついに彼女は耐えきれず
祭壇を降りる決意をする

+

しかし、状況は何も変わらなかった
どこであろうと自分を名前で呼ぶ声が聞こえる
世界は不可逆で
彼女は外出を控えるようになり
精神は蝕まれていった

+

彼女は死んだ
それには彼女なりの理由があり
誰かのせいにするには容疑者が多すぎた
ただ一つ変化したのは
彼女の「死」という新たなエッセンスが加わったことで
再び男達は興奮を覚え
彼女はさらに何千万回も犯された



自由詩 名前 Copyright ろくましん 2008-12-29 10:41:37
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