キコ
ねことら
キコ、あの頃みたいに
カッターナイフ遊びがしたいよ
廃校の裏に捨てられた注射器に
ためた雨水を夕陽に透かせば
遠い異国へ運んでくれる
琥珀色のモルヒネになったね
キコ、無人のメリィゴーランドがまわっている
硝煙の匂いが立ち込めるあの日々のどこかで
ずっとまわっていた、ずっと
顔のない大人たちが管理する町は檻みたいで
ぼくらは毎日小さな罪をひとつずつ犯して生き延びてたね
コンクリートの破片が薄いスニーカー底を破って、
血が出て、いたくて、まだ歩けるのに、キコ
ぼくらのあの頃の感情は一瞬後には絶滅していてそれがわかっているのに名前をつけることさえできなくて自分を傷つける真似ごとばかりしていたね
直線直線直線破線、散って、鮮やかなライトグレー
飛び散る点と点に
)なりたいの?
)なりたいの
暗い春のように微笑みあって
静まった夜、最後の花が散るように、スプリングの壊れたベッドの上
ふたりで脆く抱きしめあえば
キスはいたくて、息をすれば酸素が刺さって、
ねえ、
もうとっくに、いいんだよ
キコ
それでもぼくは、これからも
ごはんをたべて、なんども眠り
あたらしい誰かを愛してさえ
いかなきゃ、
ならない
寒い夜は、きらきらする痛みとともに
なつかしい歌をおもいだす
キコ、きみが好きだった歌だ
甲高い声をあげて過呼吸のように
題名のないこの歌を歌った
この歌だけが、ずっときみだったね
僕にはもう、歌えない歌、
キコ