R305
小川 葉
いつからだろう僕のからだには
アルファベットと数字が記されている
いくつめかの恋をした時に
恋人により偶然見つけられて
それからすぐに彼女とは別れた
とても怖がりながら僕のもとから去っていった
場末の酒場である老人に
そのことを告げると
人は間違いをしてしまうと
ロボットになってしまうのだよと
僕におしえてくれた
老人のからだにあるアルファベットを見せてもらうと
R13と記されていた
ずいぶん幼い頃に間違いをしたものですね
からかうようにそう言うと
煙草だよ、あれがはじまりだった
と煙草の煙をくゆらせながら眉間に皺を寄せる
そういえば僕も煙草を吸っている
一度も吸ったことがなかったのに当たり前のように
R305と記されていたロボットの僕は
それが国道の名前であることを思い出すと同時に
自分の名前なのだと思えば
そのようにも思えてくるので
僕は少なくとも305歳以上は生きてきたことになる
305歳のその時
僕はどんな間違いをしてしまったのだろう
歯車の音がそこいらへんじゅうから聞こえてくる
そんな夢から覚めて僕は国道305号線で目を覚ます
居眠り運転だったらしい
その事故車から担架に乗せられる僕を
今は他人事のように見ている
そのからだには偶然だろうか
R305と記号が記されていた
誰もがいつか死ぬのだ
僕を見とってくれた妻はいつも歯車の音がしていた
お互いにはじめから死んでいたのかも知れない
信じたくはないけれども
事実かもしれなかった
今は君を
歯車を軋ませながら
このままずっと抱きしめていたい