みじかい糸を編んでいる
ホロウ・シカエルボク






みじかい糸を編んでいる
時間をかけて
まるで
なんらかの意味あるものを
かたちづくろうとするように
みじかい糸を編んでいる
みじかい糸を編んでいる
その糸はもろく
わずかな加減の間違いで
はかなくちぎれる
そんな糸を
幾重に編んでみたところで
なにが築けるというのか
みじかい糸を編んでいる
みじかい糸を編んでいる
からっぽの人形のように
気のふれた女のごとくに
みじかい糸を編み上げて出来るものは
いつも編み上げようと思ったものとは少しちがう形をしている
その形にはどこかこちらを小馬鹿にするようなふしがある
つよく握ると
わずかな加減の間違いで
それははかなくちぎれていく
正解のないものに
間違いを悟る
寓話のような馬鹿さかげんよ
みじかい糸を編んでいる
みじかい糸を編んでいる
みじかい糸を
さようならとさりげなく口にする夜半の空気
編み上げる指に伝わる感触はいびつな言語が持つような不安定
もしか切るためにこの作業は行われているのだろうかと
疲れに震え出す指先を見つめながらしばし思案した
逆に向かって飛ぶことをひとは錯乱と呼びたがる
だけど多分ほんとうはそこには何もないんだ
糸の破片がひざ頭で
うんざりするほど無数の切り傷に酷似していても
みじかい糸を編んでいる
みじかい糸を編んでいる
みじかい糸を編みあげたあとになにが残る
わずかな加減の間違いでちぎれてゆくものたち、さよなら、さよなら、空に死んでゆく糸の破片たち、さよなら、さよなら、この空は低すぎる
みじかい糸を編んでいる
みじかい糸を編んでいる
こじきのように
あばずれのように
古い感触のなかへ流れ込んでいくなにもかも
送ることすらままならぬ暗闇の絶対
低く晴れた空をゆけ、低く晴れた空をゆけ、無作法に送ってくれるものたちの名札には「皆無」
彼方で迎えてくれるものたちの名札には「移動」と書いてある、低く晴れた空をゆけ、低く晴れた空をゆけ、脳のつまったぼうやの目つきのようなどろんとしたぎこちなさで、はかなくちぎれてゆくものたち、おまえの名札には




「ひかり」とだけ記されている









自由詩 みじかい糸を編んでいる Copyright ホロウ・シカエルボク 2008-12-25 18:16:15
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