旅の始まり
北斗七星
暴れ走る稲妻の背中に跨り
その鬣(たてがみ)を掴み
空を駆け抜け大地を蹴る
旅人の話に
少年は目を丸くした
溜め息の葉や迷いの蔦が
生い茂る
空さえも覆う森の
その奥にあると言う
知恵の大樹の言の葉
旅人の話しに
少年は息をのみ聞き入った
滾々(こんこん)と沸き上がる
澄んだ恋する泉の畔で
竪琴を奏でる女神の歌声
旅人の話しに
少年は胸を熱くした
どんなに歩いても
変わらない景色が続く
不安の砂が広がる大地にも
咲いているという
希望のサボテンの花
その地平線を越えると
数えきれない時の波を数える
心の海が広がる
旅人の話しに
少年は旅に憧れた
旅に出たいと
少年は旅人に話した
どうやって
旅に出たらいいのかを尋ねた
しかし旅人は少年の目を見つめるだけで
何も語らず
ただ微笑んでいた
旅人と別れた少年は
なぜ旅人が微笑んでいただけであったのか
どうしたら旅に行けるのかを
教えてくれなかったことを
思いを巡らしながら歩いていた
少年と別れた旅人は
暫く歩くと振り返った
旅人の瞳には
何かを背負って歩くような
少年の小さな背中が映った
そしてもう一度
その小さな旅人の背中に
何も語らず微笑んだ
小さな旅人が背負った
夕暮れの空には
一番目に見える星が
はっきりと輝いていた