寒冷前線(人妻かずこ)
ばんざわ くにお

ラジオからは
午後から寒冷前線が
南関東を通過する
予報が流れていた
かずこは昨日
十年ぶりに高校の卒業アルバムを
開いてみた
同級生のあの人とは
言葉をかわしたことはなかったが
アルバムの中では
同じ写真に収まっていた
就職で東京に出てきて同じ職場の人と
結婚した
ここ京浜工業地帯に程近い住宅地からは
コンビナートの向こうに海が見える
あめ?
夕食の買い物に出かけた帰り道
かずこは空を見上げた
さっきまで晴れていた空には
巨大な黒い雨雲が広がり
その下を千切れ雲が
すさまじい速さで
北の方角へ流れていった
あの人が住んでいる
故郷の方角へ
千切れ雲は流れていった


自由詩 寒冷前線(人妻かずこ) Copyright ばんざわ くにお 2008-12-20 10:14:49
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