空以外の空
木屋 亞万

地に足が着いたまま
一番空に近づいたキリンでも
見上げる空ははるかに遠い

空を舞うように
自由に飛びまわる鳥たちでも
見上げる空は遥か彼方だ

いかなる動物も空に到達することはできない
顕微鏡で覗いた仰向けのミジンコも
太平洋の海面で潮を噴くクジラも
見上げるのは届かない空

狭苦しい地上には
身を寄せ合うようにして
動物、植物、微生物といった生物
無生物が存在する

空は
いつだって
空っぽ

物に変わりない生き物は
どう頑張っても空にはなれない
空に近づくのは物質的飛翔ではなく
物質性の解消なのだと、紙は人を借りて語る

都会に住む、最新の人間は
瞳の中に空があるらしい
それはつまり、人間の体内で目覚めてきた
身体を寄せ合う地上での
深遠な虚無感の表れだ

僕らの言う
僕らの見る、
僕らの抱える、空は
いつだって本当の空を模した空なのだ
空以外の空しか
物である僕らには感じることができないのだから


自由詩 空以外の空 Copyright 木屋 亞万 2008-12-19 02:15:30
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