忘れるということ
石瀬琳々

忘れてください
と、口にした時から忘れられなくなる
ふいにこぼした言葉も
思いつめた頬の感じも


忘れてください
忘れたものは戻ってこないと知っている
ある日ふとまざまざと
風に揺れていた花のかたち
あの赤い色を思い出しても


忘れてください
忘れられたものはどこへ漂っているのだろう
思い出すまで 思い返しても
もう手にとることも
抱きしめることもないというのに


忘れてください
少しずつ砂山が崩れるように
陽だまりの花が萎れるように


忘れてください
こうして言葉にしてしまったからには
忘れるしかないのだと気づく
握りしめていた思いを
そっと手ばなす そっと見送る



自由詩 忘れるということ Copyright 石瀬琳々 2008-12-18 13:44:24
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