ヨトギ
木屋 亞万
彼女の手の平が押し出す白濁が
指の隙間から流れていく
少し力を込めた腕の強張りに
持ち上がる頬が顔立ちを整えていく
束ねてもらえなかった前髪が
目の鋭さを扇情的に遮っては見せ付ける
もっとゆっくりやってよと
ぼくが言うのだけれど彼女は
それではダメだというので
いつも僕のしあわせは
一瞬の白濁の中に流れ去ってしまう
だから僕は苦し紛れに
何度も何度もおかわりをして
胃がイカ飯になるくらい
白濁の半消化物で内臓を満たす
5時を過ぎて辺りが暗くなり始める頃
台所の蛍光灯をつけて、彼女は米を研ぐ
柔らかい手の平で
コツコツとした甲を押し広げ
細い指のわずかな隙間から
汚れた水を流していく
濁った水は早く捨てないと
お米が吸ってしまうのと彼女は言う
あなたの変な趣味には付き合っていられないと
作業を熱心に眺めるぼくを尻目に
彼女は炊飯器にご飯を仕掛ける
彼女の研いだご飯は香り立つように甘い
ぼくは世界中のどの男よりも
この米に嫉妬し、自分もこのひと粒になりたいと思う
願わくは指の隙間から零れ落ちて
彼女の指に摘んでもらえる
ひと粒になりたい
ちなみにその前は洗濯機で激しく回され
乱暴に揉まれ、冷水と泡を浴びせられる
洗濯物にも憧れていた
願わくは彼女のTシャツになりたかった
彼女はぼくを変態だと笑って
どうして恋人になりたいと素直に言えないの
と、静かにぼくを洗い流した