段差のない家
小川 葉
段差のない
同じような家のならぶ
団地に住む
友人の家に日曜日
遊びに行った
ちょうどお昼ごろだったので
お昼ごはんを
ごちそうになった
手作りの
パンとコロッケと
コーヒーも飲んだ気がする
僕の家なら
たとえ日曜日でも
ごはんと焼き魚と味噌汁
ときたまラーメンを出前することはあったけど
段差のない友人の家の休日は
家族みんな平等に
幸せそうで
静かで
時にはにぎやかに
与えられた役と台詞をこなしてるのは
幸せなのかは知らないけど
都会的であることは幸せなのかもしれないと思って
けれども
パンを少しだけのこしてしまった
それから
一匹の蜂に追われて帰った
団地内を出るまで
その蜂は追いかけてきたけれど
敷地から出ると
いつのまにか
どこかへいなくなっていた
それは春なのか
夏なのか
秋だったかもしれないし
冬だったかもしれなかった
もう一度だけ
団地に住む友人の家に行ったのに
どこにも見つからなくて
ただそこいらへんじゅうから
蜂の羽音が聞こえてくる
段差のない家から
段差のある世界をもとめて
家を出て行ってしまった
友人の無口な声に
蜂の羽音は似てるような気がしていた