恋歌
エチカ
網目のような夜の波間のノクターン
オールをこいだ波の上で
ぱしゃり、とはじけた憂鬱を
必死で波間に溶かして
トビウオ達の群れが
空を渡っていく光を見ている
街の光は黙ったままで空を飛び交い
海では空っぽのくらげが抱き合って
骨を捜しあっている冬の夜
記憶の中で確かなことを
たぐりよせてはちぎり捨て
拾い集めては失った
まばらな僕らの世界地図
着古したよれよれのせえたみたいに
向こうの世界が見えていた
よじれた糸を手繰り寄せ
網の目のようなことばを
殴りつけては繰り返し
仕合せを探した冬の朝
しゅんしゅんと鳴く蒸気の音が
窓ガラスに苛立ちと優しさを与えて曇っている
歌を歌うには静か過ぎて
踊りを踊るには狭かった夏の夜
冬なのに蝉が鳴いていたから恋をして
夏なのに雪が降っていたから溶けてしまった
本当は、大事にしたい恋だった
大事にしていたはずの鏡が割れてしまったから
あなたは私を見た時に
ひどく疲れた顔をした
2年前のケロイドが
痛々しく膨れ上がった僕らのようで
いつしか僕らはお互いを
見れなくなってしまっていた
私達は己の傲慢さを知り
己の汚らしさを知って
お互いの素晴らしさを知った挙句
お互いの本当の姿を知った
くらげのままで抱き合って
骨を捜していたかった
夏も冬も
続く限りは永遠に
大切にしたい、恋でした