トロールたちの眠れない夜
小池房枝

ムーミン谷に不眠症はない
眠れなくても誰も困らないから

ムーミンママは
もし眠れなかったら台所の整理
夜出てくるトロールたちに
小さなお菓子をこさえてくれたり
あたたかい飲み物をくれたり

ムーミンパパはベッドから
起き出しちゃったらいつもと同じ
楽しげに苦悩しながら
目を開けたまま見る夢の続き
小説書き

スニフは夜は暗いのが怖そう
それでも怖いもの見たさで
勇気をふりしぼって
ちょっとだけドアを開けてみる大冒険

ミィは眠っててくれたほうが静かね
でも眠らなくていいとなったら
彼女きっとやりたい放題

ヘムレンさんは
コレクションの調べもの
フローレンは
夜明けまで前髪のブラッシング
眠ることも眠らないことも全ては無駄で
モランはさまよい
海馬は走る

そうして
スナフキンは子守唄を歌わない
ギターは聞かせてくれる
歌も歌ってくれる
コーヒーもいれてくれるだろう

余計眠れなくなるからと断れば
どうしてそんなに眠りたいんだいって
言うだろう

ムーミン谷では
眠らなければ翌日に差し支えるひとなんていない
学校も試験もなんにもない

ほら
遠くの丘の上を
シルエットになって渡っていくのは
ニョロニョロたち

ああ
そうだね
彼ら
渡っていくね


自由詩 トロールたちの眠れない夜 Copyright 小池房枝 2008-12-14 22:44:32
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