縄文イチゴ
海里

山火事でもなければ
原っぱなんてどこにもなかった
照葉樹や広葉樹の
極相林ばかりの土地だった

だけど
クリやクルミやドングリを貯えながらも
一年のうちいっときだけ味わえる
甘やかな赤い草の実を
彼ら楽しみにしてはいなかっただろうか

縄目模様の土器に
どっさり摘み取ってみたり
赤米ではなく
果実酒を醸してみたり

ひたひたと寄せてくる海と
今よりずっと暖かだったはずの気候の中で
時折ごくまれにもたらされる首飾りや耳飾りの瑪瑙

そういうものや
煮炊きの炎や
夕日を見て
あの実の色だと思わなかっただろうか

そうしたら
それが詩のはじまりだったかもしれない
独り言としてさえ
口に出されることがなくても

縄文時代のプラント・オパールの中に
イチゴの花粉を探したひとはいないか


自由詩 縄文イチゴ Copyright 海里 2008-12-13 19:39:58
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