ピーマンショック
木屋 亞万
スクランブル交差点で
ゴツゴツした緑色の肌の大男が
巨大な鉈で素振りをしている
それは腰の回転を利用した
あの野球特有のスイングで
彼の腕が伸びきる頃に鉈はブンと鳴く
彼の周りにあった電柱や
郵便ポストや信号機や電話ボックスは
ことごとくスッパリと切れてしまっていて
彼の鉈のスイングのラインより上には
何も存在していなかった
自動車も自転車もビルだって例外ではなかった
「そんな夢を見たんだ」ジョンはソンに言った
「それとピーマン嫌いに何の関係があるんだい」
ソンは苦笑しながら、目の前のピーマンを指差した
「わかったよ。全部言うよ」ジョンは話を続けた
そこに一人の女性が現れた
白い肌でラヴェンダーのタンクトップを着てる
小柄でスリムで黒いズボンが良く似合ってた
彼女が連れてた犬が大男の方へ行ってしまったんだ
慌てて彼女は犬を追いかけた
次の瞬間だよ、彼女は、犬とともに
スッパリと切られてしまった
上半身が僕の方へ飛んできて
彼女が僕に抱きつくように覆いかぶさってきた
彼女は首を下に傾げたまま動かなかった
当たり前だったんだ、上半身だけなんだから
死んでたんじゃないかと思う
でも、彼女の開いたままの目はとても美しくて
僕は誘われるように視界を下に落としてしまったんだ
「そんなところで話を止めるなよ」ソンは堪らずに言った
「話しながら思い出して、また気持ち悪くなったんだよ」
「視界の先に何があったんだ」
僕が目を落とすと、それが夢だったせいか
下から彼女のお腹を見上げる構図になったんだ
そこには彼女の切断された胃と肺があって
ピーマンの中身と種みたいに
胃とかアバラの空洞の先に
肺胞がバラバラくっついていたんだ
思い出したように彼女の身体から血が噴出してきて
僕は泣きながら絶叫した
「それ以来、僕はピーマンを食べるどころか」
「切ることもできないって訳か」
「そう」
「でも、俺も切りたくなくなっちまった」
「だから言いたくなかったんだよ」