産声
石畑由紀子
わたしを
引き寄せた、その腕は
力強く
ふるえて
泣いた
産まれたのだ
けたたましい、君の産声に包まれながら
手のひらによせてくる、鼓動
二重螺旋のかなしみが
わたしのからだを駆けめぐり
ずっと、魚で
水をやりすごしていたこと
やっといま、肺いっぱい空気を
吸いこんだこと
気づいた
嗚呼
わたし、
産まれたのだ
ラジオの波音
ちいさく鳴って
ワイパー
左右にゆれて
水滴をたたえた洞窟のなか
ふるえながら、祝福の
うたを唇に
灯して
さみしさは襲いかかるでしょう
二人は
しあわせにならないでしょう
それと
想うことは
別
泣きやまない雨を
わたしと君は行こう
いのちと、いのち
向かう
暗闇にふたすじの闇が
寄りそっている