最後のチャイム
青木龍一郎
教室を静かにしたかったんだ。
教室の話し声
雑踏
ドアの閉まる音
机やイスが触れ合う音
黒板とチョークが擦りあう音
男子たちの汚い会話
女子たちのもっと汚い会話
全ては僕が耳を塞ぎたくなる音だ
僕はいつからか
いつからかなんてなかったかもしれない全ての最初からだったのかもしれない
とにかく教室の音が本当にイヤになってしまっていた
教室が静かになった瞬間
君の手を引っ張って教室に飛び込みたい
教室で君と僕が2人きりになったとき
僕はヨダレを垂らして教室のチョークを全てへし折るだろう
ブルブルと震える君はカーテンに巻きついている
少し暗くなった外を眺めて
僕は「すごく静かになった」と呟く
電気も暖房も消えてしまった教室はひどく寒くて
室内なのに君は白い息を吐いている
僕は、君と関わることを避け続け
モグラ叩きのように繰り出してくる沈黙を淡々とたたき続けるように
独り言を繰り返す
「さっきまでクラスのみんなが居てあんなにうるさくなったのに
急に静かになってしまった。冬だから日が沈むのが早いよ。
みんな家に帰ってしまった。世界が静かになったみたいだろう。
今、この教室には僕と君しか居ない。
それがどうってことでもないけど、間違いなく絶対的に
君は心の中の喫煙所を失っている」
消えてほしいんだ。
目障りな机と椅子が。
黒板も時間割もみんな無くなればいい。
教室には何も要らない。
もう1度言う
今
静かな教室に
僕
と
君
が
存在している。
僕
と
君
だけ
が
存在している。
なんでこの教室はこんなに寒いんだろう。
なんでこの教室はこんなに静かなんだろう。
このままじゃ僕は君を殺してしまう。
これは本当にマジで。
賑やかさはハッキリとやってくるのに
静けさはいつの間にかなんとなくやってくる。
ハッと気づいたときには沈黙が僕の体を撫で回しているんだ。
僕はポケットからマッチを取り出し
中から棒を一本取り出し、あーと息を吐いて
木箱の側面にスライドさせる。
火がついた。
「見て」
僕は初めて君に声をかける。
「見て。火が燃えてる」
カーテンにくるまってた君が、僕が手にもつマッチを見る。
僕はそれを黒板に投げつけた。
黒板が燃えた。
「黒板を燃やすことでようやく授業が終わるんだよ」
黒板はみるみるうちに焦げていく。
「ようやく授業が終わったよ」
僕はいきなり机の下に身を隠し、机をガタガタ揺らしながら叫んだ
「地震だよ!地震がきたよ!どうしよう!地震がきちゃった!」
君はカーテンから僕を見つめてる。
歯をガタガタ鳴らしているのが分かった。
「地震だよ!地震がきたよ!どうしよう!地震がきちゃった!
僕達さあ!このまま死んじゃったりして!怖い!でもドキドキしちゃう!
ほら!見て!こんなに震えてる!僕達のインフルエンザはキラキラと光りだす!
その場合の根拠はためになるよ!?」
この間さあ、君の悪口を言ってる男子たちが居たから
そいつら全員、金属バットでやっつけたんだけど
それは僕の弱さを露呈する結果になってしまったよ。
僕は君のことが好きなわけでもなんでもないけど
沈黙の教室で2人きりになったとき
夕焼けが差し込む寒い寒い教室の中で
ただ一言交わした会話が
ずっとずっと胸の中に刻み込まれていて
ふと思い出したときに
僕はおしっこを漏らしてしまったりするんだろうね。