He
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生まれた時から彼を知っている
普段はなかなか思い出さないけど
いつも僕のすぐ近くにいる
喫茶店の窓際の席
最終電車の車窓
町中のショーウインドウ
いろいろな場所で彼に出くわす
この前トイレで顔を合わせた時は
ひどく疲れた表情でこっちを見ていた
「おい、浮かない顔してどうしたんだ?」
彼に尋ねても答えてはくれない
いつも僕の動作を真似するだけ
彼はとても面倒見がよくて
学校でも職場でも人の気を惹いた
いつだって彼の周りは笑顔で溢れていた
だけど彼だけはすごく辛そうだった
人知れず抱えていた不満も
密かに泣いていたことも
本当は全部知っているんだよ
誰よりも彼のことを知っているんだよ
だけど時々 彼のことが分からなくなる
彼が他人のように思えてくる
本当の彼に会いたいと思った
目の前にいる彼ときちんと向き合えば
やっと一つになれると思うんだ