笑い男
aidanico
脆弱にも映るその青年は話を始めるタイミングと言うものを実によく心得ていた。特に聞き分けの無い小さな友人たちにおいては、その尊敬を二時間にして勝ち得るほどの能力を惜しむことなく発揮した。それでいて気取るでもなく、威張るでもなく、眼差しを細めて諭すような視線をバックミラーに写しているのだ。彼は幾つもある小さな友人たちへの話中から慎重に(しかしそれを悟られないよう瞬時に)感知して、今日も「笑い男」の話を生き生きと始める。
*
深い海の青に彩られた
爪先を通り越し
その視線は薄い桃色の
花びらを通して
地平を見下ろす
磔刑に為ったのは偶然ではない
丸く膨らんだ鼻から
籠もった息が漏れる
ぴいいんとはった
冷たい空気を揺らすために
暖かい国から流れ着いたのだと言う
おさげの少女と
獰猛な中に安らぎを秘めた
旧知の友と
音階を持った言葉を喋る
少しばかり陽気な友人と
ぼろを纏った
笑い男、
下に縫うように走る
混凝土に
眼を落として
今も明日も
変わらないと確信し、
*
バスは止まる
物語の最後を
決して語ることなく
若い男女が
結ばれて、解けるのを
見届ける代わりに
―――「おい、お前、物語の最初は必要ないのかい」
そんな物は
幾つも転がっている
コートに身を包む人の群れの中に
老人から餌を摘む鳩の群れの中に
物語の最初は
幾つでも、