球体
aidanico


星も出ない夜、
寒さに静まり返り
冷たさだけが
消えた街灯の下に
佇んでいる
よる、

眠りに付こうとする
皺だらけの手が
手を伸ばすと
両の肢がでる
大地は俟っている

お前よ、
何を泣く
寝床の温ささえ
知らないのに



目を開いて睫を
両側から見詰めている
群青の、
眸が



両生類
その類の
鰭のあるぬらぬらとした
体を撓らせて、落ちた、淡い桃色の
滴るような肉を
喰らう
音が
聞えて
居るのに
未だ動かない



季節外れの蝉が鳴いている
褐色の皮膚は脆く
ぱらあ、ぱっぱらり、

落ち葉に溶け込むのを
内側から
視界の開けてゆくのを見る



鴎、
広々と翼を広げ
潮の香りのする海を
飛び交う
警笛が
聞える、遠くから
旋廻せよと
言うでもなく
戻ってこいよと
言うでもなく
腹の白と雲の境界線を
知らないのに



深緑の苔の覆う沼から
両足を這い出し
近づくのだか
接吻するように
首に回る
黄色いびいだまの視線は
転がる
前に
ゆっくりと



お前よ、
何を泣く

象の眼が老人のように優しいのを知っているか
猿の尻が恥しさに赤いのを知っているか
鳥が嬉しそうに騒ぐのを知っているか
蛙が声を合せて歌うのを知っているか

お前よ、
何を泣く

この地平を
仰いでも、
仰ぎきれないのに




自由詩 球体 Copyright aidanico 2008-12-05 23:28:48
notebook Home