Ghost
百瀬朝子

家の中
黒い蜘蛛が
足元を横切って
その不吉さに
驚いたあたしは体の
バランスを崩して足をくじく
突然足をくじいたあたしに
驚いたのは黒い蜘蛛
四角い部屋のひとつのかどで
動きをとめた黒い蜘蛛
あたしは痛む足をかばいながら必死
トイレに逃げ込む

便座にむき出しの尻をつけて
考え事
冬のトイレは冷えこんで
頭皮まで寒さがしみて
全身鳥肌
何分経過しただろう
ドアの開閉を感知して
まわりだす換気扇は
カチリと音を立て
その動きをやめた
それはまるで
世界のすべてがその動きを止めたようで
心がしんと鎮まって
空気までしんと静かで

動きを止めた世界の中
あたしを睨む鋭い目つき
目の玉なんてどこにもないのに
感覚が
睨まれていると叫ぶんだ
そこにいるのは誰ですか?
妙な気配に
鳥肌が消えない


自由詩 Ghost Copyright 百瀬朝子 2008-12-05 11:30:15
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