サーカス
yo-yo
そこに
風の道はなかったけれど
風を運ぶものはあった
見えない軌跡を引きながら
きみの空中ブランコが接近してくる
渦まく風のすべり台では
空のクリオネたちが目をまわしていた
宙を満たしているのは闇で
伸びてくるきみの手だけに光がある
きみの指にぼくの指がからむ
その一瞬に風景がかわる
空にかかる水の橋を
あわてて渡るクリオネたちがみえる
生きることのバランスを
ひとは危うい遊戯とみるだろう
近づいたり離れたり
手と手が触れ合うのは一瞬だけど
その一瞬にかけて
ふたりは遠心力を生きる
ひとりで愛を語るというクリオネたちの
言葉の距離から解き放たれて
目から目へ
唇から唇へと
ひとつになろうとする重量がある
終わりは始まり
大きく風景は反転して
空のざわめきが近づいてくる
闇を押しひらいて産卵する
クリオネたちの風景が傾いていく
その緩やかな速度で
ふたりは風になる