鉄獣軌
木立 悟
白い杭と鉄条網が
鉄の獣を取り囲んでいる
天気雨がなまぬるく
獣の背の光を流す
欠けた虹がすべるように
ひとつふたつと遠去かる
溶けるように昇る空
指の跡のついた土
水と光の交わりの蜘蛛
したたる血さえ怖気づく
獣の目のなかの羊の黄金
今にも飛びかからんとする意志の光が
色となり線となり渦まいている
ごうごうと夕焼けが鳴り
つまさき立ちの光が歌う
(とどく深緑)
(とどかぬよ)
咲く花はみな深緑
重なりつづく深緑
(光吸うよな深緑)
杭埋める草木を
棘からむ棘を濡らす雨
足跡にかがやく金の錆
欠けた虹は蝶のように
羽の生えた鈴のように
囲みを砕いた鉄の背を
荒れ野を過ぎる鉄の背を追う