殺されている物語
いねむり猫
子供たちの物語は
殺されてしまう
大人たちには まぶしすぎて 力に溢れ過ぎていて
胸に心地よく抱いておくことができない
子供たちの物語は 世界を壊してしまう
すでに流通している感動を 賞味期限切れにして
共感されている喜びを お約束だらけの儀式にしてしまう
子供たちの物語は
日々殺されている
親達は 子供たちの物語を
やさしく微笑みながら やわらかく 繊細に 修正する
そして 絞め殺してしまう
窒息させてしまう
手足をもぎ取ってしまう
使い古された大きな物語に 付け加えられていくのは
子供たちの物語の 無残な遺体
子供たちの体から湧き出してくる力 新たな世界に乱入する力
大人が迷うこともなく世界の片隅に追いやった 無数の無価値な端布たちと
子供たちは出会い 驚きがはじけ 喜びに溶け合い そこで世界が生まれる
世界の狭間から 境界から
とめどもなく 生まれる新たな生き物たち
形も定まらない新たな感覚 叫び声 交合
行方を予想することもできない疾走
その誕生を 背後にいる大人たちに 何とか伝えようとして
子供たちは 全力で物語をつむぐのだ
その物語を そのまま ただ受け取ってやることが
私たちにはできない
私たちがしがみついている 古びた物語は
子供たちのつむぐ物語に怯えるほどに はかなく 色あせているから