アンナ
タマムシ
アンナは、わたしの大切な友人で、まるで姉妹のような存在でした。どんなことでも話せるし、あんなことやこんなことをして遊びました。そんなアンナが、わたしを残していなくなってしまったのは、とても辛かったのですが、誰もアンナのことを知らなくて、わたしがどんな子だったかをいくら説明しても、そんな子は知らないというふうに、首をかしげるほどでした。
アンナがいなくなってからしばらくして、公園でなついてきた猫に、わたしはアンナという名前をつけて仲良しになりました。わたしは猫のアンナに、嬉しいことがあったり、悲しいことがあったりすると、どんなことでも話しました。そんな日々が数年つづいたある日、猫のアンナは息を止めて動かなくなってしまいました。わたしの腕の中で、猫のアンナは最後まで人の言葉を口にすることはありませんでしたが、アンナはとても幸せそうに眠ったので、わたしはそんなアンナを悲しく思うことは止めました。
猫のアンナがいなくなってからしばらくして、道端でなついてきた犬に、わたしはアンナという名前をつけて仲良しになりました。わたしは犬のアンナに、アンナや猫のアンナと同じくらいの愛情で、どんなときもいつも一緒に過ごすようにしました。もう残されるのは嫌だと思って、犬のアンナを部屋から一歩も出さずに抱きしめていました。するとしばらくして、犬のアンナはわたしを嫌がるようになり、わたしに噛みついたりしました。それでもわたしはひとりになるのが怖かったので、怒ったりもせずにやさしくやさしく愛情をこめて語りかけました。けれど犬のアンナは人の言葉を知らなかったので、わたしに返事をしてくれることはなく、それが悲しいと伝えたかったのに、ある日突然、部屋から逃げ出してしまいました。
また残されてしまったわたしは、アンナを探して街を歩きました。どこまでもどこまでも歩きつづけました。道行く人は、わたしをときおり変な目で見たけれど、わたしは気にせず歩きつづけました。アンナ、アンナ、アンナ、どこにいるの?わたしをひとりにしないでアンナ、わたしの喜びや悲しみをすべて受け止めてアンナ。どれくらい歩いたのか、わたしはようやくアンナをみつけました。
砂浜にひざをついて、青い青いアンナにわたしは、それまでのすべてをうちあけました。アンナは何も言わずにわたしを受け入れて、わたしは人の言葉ではあらわすことのできないことをからだじゅうで感じながら、涙の味がするアンナの中で、ようやく泣くことができました。