伸びよ蘖
餅月兎

刈入れを終えた田圃では
実りを待たれることのない蘖が
青い頭を覗かせている

下向きの気分が伝播するのはとても容易く早く
そのあと
荒れた土地で希望はなかなか芽を出さない

それでも
蘖は毎年のように天へ向かって伸びようとする

実りを待つ者もいないのに

過ぎ行く日々の速さにため息をつきながら
カレンダーをめくる手をふと止めて
落書きしてみよう
僕の名前の隣にあなたの名を
それはささやかな明日への願い
虚しさ溶かす自分との約束
寂しさと馴れ合うためのセラピー

例えば
僕とそっくりの少年の名
いつもルームミラー越しに目が合う
君にいいところを見せたいから
かっこいい男でありたいから
振り向かずアクセルを踏む

例えば
黒い髪と大きな前歯が可愛いあなたの名
あなたに恥じない男になりたいという気持ちが
怠け者の僕を今日も鍛えている

例えば
僕を怒鳴りつけてばかりだった口元を
遺影の中では綻ばせているあなたの名
いつかあなたに褒められたくて
昨日と違う気持ちで仕事に向き合ってみる

あなたは夢
夢はあした
あしたは僕
僕は蘖
蘖のあした
あしたのあしたのあしたの…

無数の僕のため君のためあなたのため
それらは複雑に絡み合い
これから来る長い冬を越え
やがて根雪に降り注ぐ春の陽に
暖かく溶け合ってゆくのだろう

そしてまた
田植えの季節がやってきて…

夢よ
あなたに恥じぬように今日を生きる
                2008.11.30


自由詩 伸びよ蘖 Copyright 餅月兎 2008-11-30 09:14:16
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