定置漂流
ホロウ・シカエルボク
すべてが優しい歌のようで
すべてが明るいあこがれで
おまえらはまるで夢のようだ
洗おうともしない穢れに蓋をして白く塗り潰す
街中の繁華街の
何か余計なものを建て増ししている中央公園の前で
アコースティック・ギターを抱えた男が
取るに足らない何かを叫んでいる
チラシのように無償で差し出される魂に
すすんで耳を貸してくれるやつなんてそんなにはいないものさ
触れ合いたいのか
暖め合いたいのか
優しい思いを知り
疲れた心を癒したいのか?
どうして疲れた
どうして壊れた
どうして許せなかった
堆積して潰れてひとつになりかけたいくつもの「どうして」を
昨日見た怖い夢のように過去に押しやって暖かい居場所を求め続けるのか
足の無い雄犬が女のように座す
二度と開かないシャッターがちらほら目立ち始めたアーケイドの終わり
思春期から出て行けないやつらは14歳で終わるだろう
俺は
老いが欲しかった
いつのころからか
きっと
若さを恥ずべきものだと
認識したときから
きっと
路面電車が億劫そうに加速する交差点には
昔数年間働いていた
とある名の知れたデパートがあった
今は更地になって
そこにはなにか洒落たものが建つはずだったんだけど
話は立ち消えてただただがらんとしている
あの頃店内放送から聞こえていたいくつもの流行歌
あの頃売れていたシンガーがひとり
何か漠然とした状況で落下して死んだ
どうにもこのところ午後から曇ってばかりいる
すべてが優しい歌のようで
すべてが明るいあこがれで
おまえらはまるで夢のようだ
洗おうともしない穢れに蓋をして白く塗り潰す
釈然としない雲の色合い
そうしとけば
降ろうが渇こうが
許されると思ってんのさ
受け止める為だけの地平が
覚悟を決められなくて焦れている
そのさまを眺めてもしかしたら楽しんでんのさ
電車通りを渡ったら河のほとりに出る
昔変わり者のサムライがそこで泳いでたらしい
今じゃ酔っ払いの便所以外に
存在価値が大して見いだせないその河で
さようなら偉人さん
あんたが嘆いていたころと同じ理由で
この土地は停滞をし続けているんだぜ
洒落た身なりの老婆が落葉を拾っている
入口の閉ざされた古い木造家屋の前で
門に絡まったいくつかの蔦が
「もうここには過去以外住んでいるものはありません」
そんな独り言を呟いているみたいに見えた
冷たいだけの風が吹く季節には傷みが少しラクになる
目を覚ましていればどこにも行けないなんてことはまずない
忘我の時に時計を眺める癖がついたのは
仕事を始めて数ヶ月が過ぎたころだった