なつかしいひと
小川 葉
なつかしいひとよ
あなたのことを
わたしは知らない
なつかしいひとよ
記憶とは
つくりものでしかなかった
なつかしいひとよ
はじめて会った日のことを
覚えているだろうか
なつかしいひとよ
いつのまにかそこにいて
そこからいなくなっていた
なつかしいひとよ
ながれゆく水のように
わたしたちはかつてそうだったように
またいつかそうなるように
なつかしいひとよ
わたしたちが出会うために
必要なことなどあっただろうか
はじめて出会ったのに
なつかしく思うことなど
できただろうか
なつかしいひとよ
あなたに会えてよかった
またいつか会う日まで
なつかしい
ひとのままで
なつかしいひとよ
わたしは
あなたを知っている