玄関先—鴨川の料亭で飛田新地を思うー 
雨傘


新世界の酒場でおねいさんが言った

ここまで来たついでに
飛田新地の風情でも
見物していらしたら

ほろ酔い加減で振り返ったその店の看板は
女郎さんの襦袢にみえた



玄関先という舞台で
浄土のような照明が
少女の肌を白銀に光らせる
安物のロマンチシズムを引き受けた
その細い手首がおとこたちを招く

客はみな 灯りが漏れる格子戸を覗き込み
一息おいて
からからと開ける

わたしは

「おまちしておりました」
と、畳に頭を近づけ
立ち上がる
白い襦袢が脛をかする



鴨川のほとりの料亭で
飛田新地の遊郭で

交わることも
殺すことも
食すことも
生まれることも 


日々
わたしたちの傍にある

―そう、生きるために売ればいいー

少女とわたしは
玄関先で目配せをする
いつかの艶やかな衣装を纏って





自由詩 玄関先—鴨川の料亭で飛田新地を思うー  Copyright 雨傘 2008-11-26 23:23:52
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