光源トキノオ
靜ト
タイル張りの部屋の中
あたしはひとり うずくまっている
泣き疲れて呼吸は浅くなり
あたしはひとり うずくまっている
そばでは水槽とテープレコーダーが
変化のないあたしに 倦んでいる
水槽には茶色の髪の毛が
新鮮な水の上で たゆたっている
テープレコーダーは固いおとで
エレキのフレーズだけ 繰り返している
ジジ ジ ジジジ
窓もドアもないこの部屋に
どこから入ってしまったのか シジミチョウが
白熱灯にぶつかって ぶつかって
はばたいている
ジジジ ジジ ジ
焦げた甘ったるい匂いがする
光走性にはどうやったって逆らえないのだ
ジジ ジ 落ちた
とたん
たまりかねた水滴が
冷えた首筋を舐め伝い
あたしはぞくりと思いついた
力尽きたシジミチョウの
両の羽を
そっとつまんで くっとひきぬく
そうだ
ハネなどついているから己に期待してしまうのだ
こんなものはすでに 無意味なのだ
「自由になりたがるのはもう、おやめ」
あたしは笑って 呟いた