光源トキノオ
靜ト

タイル張りの部屋の中
あたしはひとり うずくまっている

泣き疲れて呼吸は浅くなり
あたしはひとり うずくまっている

そばでは水槽とテープレコーダーが
変化のないあたしに んでいる

水槽には茶色の髪の毛が
新鮮な水の上で たゆたっている

テープレコーダーは固いおとで
エレキのフレーズだけ 繰り返している


  ジジ   ジ     ジジジ


窓もドアもないこの部屋に
どこから入ってしまったのか シジミチョウが
白熱灯にぶつかって ぶつかって
はばたいている


   ジジジ ジジ    ジ


焦げた甘ったるい匂いがする
光走性にはどうやったって逆らえないのだ


  ジジ    ジ             落ちた


            とたん

たまりかねた水滴が
冷えた首筋を舐め伝い

あたしはぞくりと思いついた

力尽きたシジミチョウの
両の羽を
そっとつまんで くっとひきぬく


そうだ
ハネなどついているから己に期待してしまうのだ
こんなものはすでに   無意味なのだ

「自由になりたがるのはもう、おやめ」

あたしは笑って 呟いた


自由詩 光源トキノオ Copyright 靜ト 2008-11-25 20:16:31
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