代打
北村 守通
見知らぬ人が
兄の名を呼んだ
父と
母は
やさしく訂正し
弁明したが
祖父は私の名前を知らなかった
手を握られてしまって
逃げることすらできない
しきりと兄の名を呼ぶ声に
苛立ちを覚えたので
特別御奉仕の
笑顔をセットにして
やさしく返事をし
柔らかく
温かく
干からびた手をなんとかして握りかえした
翌日
見知らぬ人の棺と共に
青い車に乗った
見知らぬ人の運転で
何も知らないうちに担ぎ出され
更にしつこい挨拶に
腰をいためた
結局
兄は来なかった
私は
当然の権利として
請求書を送りつけたが
未だ回収できていない