とんぼ達と
砂木

今年の初雪に白く染まった林檎畑
ついこの間 葉にしがみつき隠れていた
とんぼも地面に落ちて
死骸になってしまっただろう
あれはまだ私がずうっと若い頃

バシャバシャという音が
霜の降りた朝の畑に響いていた
ジャージに長靴をはいて
林檎もぎのため畑の中を歩く
聞きなれない音にあたりを見回すと
とんぼが何度も繰り返し
草の上を上下に飛んでいた
その必死な様子にひかれて
側に行くと とんぼは逃げ
そして のぞきこむと

霜柱に凍った草の中に
別のとんぼが 動けなくなっていた

とんぼが とんぼを助けようとしている
そう感じたので 霜柱の草むらから
羽をつまんで とんぼをだして
近くの安全そうな草むらに落とした
とんぼは抵抗したけれど動けないので
落ちた場所でぐったりしていた

あとは知らないよ
それっきり忘れて
りんごもぎに集中した

そして陽も射し暖かくなった頃
畑の中で休憩をとった
お茶を飲みつつぼーっと青い空をみていたら
しっぽにつかまって 一組になっていたとんぼが
ふらふらと飛んで来て
私の眼の前でぴたりと止まった

お互いを認識してみつめあったのは
一瞬のようだった気がする
助けたとんぼの夫婦かどうか
確かめるすべもない けれど多分

あの細い手足で何度も助けようとしていた
あんなに悲痛な羽音は 悲鳴はきいた事がなく
私が去ったあとに かけつけたあのとんぼは
きっと つがいを助けるために
全力で暖めたのだろう
敵かも知れない私に わざわざ姿をみせたのだろう
なんて思ってしまって

毎年 終わっていく者が季節と共に過ぎる事に
少しづつなれてきたけれど
忘れられない熱さは 過ぎ去る事はない





自由詩 とんぼ達と Copyright 砂木 2008-11-23 22:32:08
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