道化が居た
松本 卓也
笑わせることができない道化が居た
目を見張る容姿も持たず
気の利いた台詞も吐けず
当たり前のことを
当たり前にこなせない
そんな道化が居た
いつ頃からそうだったか
何一つ覚えていないけれど
笑顔を向けて欲しくて
捨て置かれたくなくって
何の変哲も無いボールがあった
誰もがそれを蹴飛ばして遊ぶ
彼はそれさえも巧くできずに
乗り上げるように転んで
地べたに這い蹲るしかなくて
誰かが笑った
彼も笑った
体も心も痛くて
泣き出してしまいそうだったのに
嘲りであることなど
理解していたのに
ただ向けられた笑顔が眩しくて
かけられた言葉が嬉しくて
一人きりは寂しくて
何処にも居場所を見つけれず
それでも道化であるならば
今までよりはずっとマシ
見当違いなことを言ってみたり
期待を裏切ってみたりしつつ
罵られ嘲られ見下され侮られても
一人ぼっちよりはずっとマシ
舞台裏に立ち寄る者は無く
とうに飽きられ蔑まれ
羽毛より存在が軽くても
孤独であるよりずっとマシ
笑顔の化粧を落とすとき
一滴の水さえも要らない
止め処ない涙で十分なほど
洗い流せるのだから
笑われることしかできない道化が居た
自分を卑下したくないのに
他の術を見つけられない
ただただ同じことを繰り返し
やがて誰しもの視界の隅で埃をかぶり
飽いて捨てられるだけしかない
そんな道化が居た