如雨露
木屋 亞万

命が終わりを迎えたら、雨を降らせましょうねと
彼女は園児の手を引きながら盛り土に
緑色した象の如雨露で水をかけてあげている
園児は鼻の頭を赤くして鼻をすすっている

園児には見えていた
住んでいる家が突如として瓦礫となり
壁がひび割れ、屋根が崩落し、隣家の車が黒い煙を上げている
町中が不完全なゴミの集まりのようになって、逃げ惑う声と足音
逃げられぬ身体と表面化した血液が瓦礫の山に埋もれて、呻いていても
助けて欲しい人間が多すぎて誰も助からない
その中でなお、銃をもった男たちが
助けて欲しい人間を殺すために走り回っている
あちこちで爆発が起きている、硝子が割れて、悲鳴が響いて
銃が大きく鼻で笑う、乾いた破裂音
何かのために誰かを殺す、どこでも、いつでも、人間は

緑色した如雨露が、
兵士のくすんだ緑色の軍服と重なって
園児は彼女を突き飛ばした
せっかく園児のよくわからない盛り土ごっこに付き合ってあげたのに
と、不機嫌になった彼女は笑顔で如雨露を拾い上げ
足早に教室の方へと帰っていった

園児は頭の中でこのようなことを呟いた
知らないということが免罪符にはならない
この土が私にとって何を意味するか
彼女は知らない、そして私も伝える言葉を知らない

園児が言いたいことが何なのか、誰にもわからないまま
恐らく園児が言葉を知る頃には
それは瓦礫のように崩れてしまっているのだろう
絶え間ない大人の暴力によって


自由詩 如雨露 Copyright 木屋 亞万 2008-11-23 01:07:17
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象徴は雨