井戸
霊屋 岬





解っていく
静かに解っていく
己がどういう人間なのか水を汲み出す度に
解っていく




解っていく
静かに解っていく
桶を沈ませる度
自分に何が足りないか解っていく




自分にはまず
安眠する為の水が足りない
自分には
湯水のような金はない
まだ自分には
一生水を汲み続ける覚悟が足りない
けれど自分には
水汲み以外に出来る仕事が見当たらない



自分には
妻は無く子も無い
自分は無学で
自分は短気だ




冷静になって水を汲み上げていると見えてくる
暗闇の底から浮き上ってくる
腐り果てた木片




解っていない時
自分が解っていない時
水汲みを失敗し水を零してしまう
挽回しようと多く汲もうとして更に失敗してしまう
自分が解っていれば
正しい汲み方が出来る
継続的に出来る
自分が解らないままで居続けたら
何も出来ないと思う





解っていく(気がしているだけなのかもしれないが)
頭上の月の満ち欠けと共に水を汲む度
静かに解っていく
(本当は)
己が解っていく
(解らない)




しかし、まだ
まだ底の方には
泥と岩の塊がごろついていて上手く汲めない所がある




そこの水が汲めない限り私は良い眠りに就けないだろう…











自由詩 井戸 Copyright 霊屋 岬 2008-11-21 18:57:50
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