それでも青い。
ナガレ 千景

空は青かった。


休日の校舎は閑散としていた。
それが好都合だった。



「なに、その生意気そうな。」
そう言われたから悲しくて、彼女は目を塗り潰した。

「いちいちうるさい、黙れ。」
そう言われたから恐ろしくて、彼女は口を塗り潰した。

「だらだらだらだら、うっとうしい。」
そう言われたから慌てて、彼女は髪の毛を塗り潰した。

「何の役にも立たない、のろま。」
そう笑われたから傷付いて、彼女は足を塗り潰した。

「不器用ね、こんなことも出来ないの。」
そう笑われたから落ち込んで、彼女は手を塗り潰した。

「おい、でかくて、邪魔。」
そう怒鳴られたから震え上がって、彼女は体を塗り潰した。

「ばか、あほ、まぬけ。」
そう罵られたから呆然として、彼女は脳みそを塗り潰した。

「ウザい、消えろ、死ね。」
そう言われたから諦めて、彼女は心を塗り潰した。




彼女はちぢこまって、黒いくしゃくしゃしたものになった。
くしゃくしゃは消えたかった。
くしゃくしゃは死にたかった。
くしゃくしゃは屋上に立った。
くしゃくしゃは空を見上げた。

泣いて!泣いて!泣いて!


くしゃくしゃは誰かに抱きしめて欲しかった。
くしゃくしゃは誰かに「好きだよ」と言って欲しかった。


空は青かった。
何分ぼやけていたけどそれでも青かった。





自由詩 それでも青い。 Copyright ナガレ 千景 2008-11-17 15:39:14
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