それでも青い。
ナガレ 千景
空は青かった。
休日の校舎は閑散としていた。
それが好都合だった。
*
「なに、その生意気そうな。」
そう言われたから悲しくて、彼女は目を塗り潰した。
「いちいちうるさい、黙れ。」
そう言われたから恐ろしくて、彼女は口を塗り潰した。
「だらだらだらだら、うっとうしい。」
そう言われたから慌てて、彼女は髪の毛を塗り潰した。
「何の役にも立たない、のろま。」
そう笑われたから傷付いて、彼女は足を塗り潰した。
「不器用ね、こんなことも出来ないの。」
そう笑われたから落ち込んで、彼女は手を塗り潰した。
「おい、でかくて、邪魔。」
そう怒鳴られたから震え上がって、彼女は体を塗り潰した。
「ばか、あほ、まぬけ。」
そう罵られたから呆然として、彼女は脳みそを塗り潰した。
「ウザい、消えろ、死ね。」
そう言われたから諦めて、彼女は心を塗り潰した。
*
彼女はちぢこまって、黒いくしゃくしゃしたものになった。
くしゃくしゃは消えたかった。
くしゃくしゃは死にたかった。
くしゃくしゃは屋上に立った。
くしゃくしゃは空を見上げた。
泣いて!泣いて!泣いて!
くしゃくしゃは誰かに抱きしめて欲しかった。
くしゃくしゃは誰かに「好きだよ」と言って欲しかった。
空は青かった。
何分ぼやけていたけどそれでも青かった。