そこにもう生温かい宿命の感触は無いとしても
ホロウ・シカエルボク






深く奥底に沈んだ
牙の先端を探して
いくつもの時間の粒が
真夜中の闇の隔たりに消えた


愛の音がしていた
夢の音がしていた
晴れの日の
花の匂いがした
やわらかな
やわらかな感触
深く沈みこむとき
それらはすべて嘘になる


俺は漂流、羅針盤を捨てて
あてもない土地こそが
行き着くべきところだと信じてから
誰に手紙を出すこともない
居ないことにしてくれ
居ないことにして
俺はどこにも
俺はどこにも


牙の先端のことをしばらく眺めていない
今でも貫けるような
そんな尖りだと信じたい
俺は深く潜る
俺が見つめる為の牙
俺が生きる為の牙
それは俺の筋肉をまだ貫けるか
それは助骨を突き破り
心臓に達することが出来るか、当たり前のように
当たり前のようにそうすることが出来るか?
どくん、どくん、というリズムに限界があること、そのことを思い知る前に
切り捨てるみたいに貫くことが出来るか?俺が価値無きものになりそうな時
牙は俺の筋肉を貫き、助骨を突き破り
心臓に達することが果たして出来るか?
もう機能しない熱を抱いてまで生きているつもりなどない、俺はその温度だけを選んでここまで来た
当たり前に生きるための資格みたいなもの、より分けて、大切なものとそうでないものを


俺はどの線上にも居なかったものになる
それこそが俺の詩情、それこそが
ささやかながら確かなこの俺の心情、物好きなお前、見届けてくれよ
最低限の挨拶はこれからも欠かさないでおくよ、ギャラリーが居なければショーは成り立たない、判るかい、俺の言ってること
俺自身の解釈が俺のことを殺すならそれはそれで構わないのさ、俺が俺の無価値を本気で信じることがあれば、俺は迷いなく牙を煌めかせるだろう
だから牙を失ってはならない
だから牙を失ってはならない
だから牙を失ってはならない
だから牙を失ってはならないよ、ナイーブな獣よ、判ってるだろう
お前がお前自身である限りそれは最後の手段だ、判るだろう、責任とは
自分で貫くことの出来る何かさ、自分で貫くことの出来る何かを
長い時間をかけて構築したやり方でやり通すことだ
判るだろう、それはまだお前の手の中にあるのか
少し試してみろ
少し試してみろよ
お前の腕に牙を突き立てて、どれほどの血が流れるか、それを知ることが出来たら



もう少し、続けることが出来るだろうさ、もう少し
忘れずにいることが出来るかもしれないぜ








誇りを忘れるな
俺たちはまだ野性の中に居る








自由詩 そこにもう生温かい宿命の感触は無いとしても Copyright ホロウ・シカエルボク 2008-11-17 00:42:10
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