あたたかいものを、ひとつ
木屋 亞万

人が通れるくらい木がまばらな林では、木の葉が鮮烈な色をしています
目に滲んでくるような赤色や、星のかけらのような黄色のものがあります
二色が混ざりつつあるような葉もあって、死ぬ前の輝きのようなどこか儚げなその色は
命の根幹にある色のように思えます

紅に染まる葉を人は紅葉と呼ぶのだそうです
黄色に染まっていくものは黄葉と呼ばれるそうです
秋に散っていく葉たちが女と男のように思えて
私は落ち葉を拾います、紅と黄を交互に
ちっとも枯れてはいない、死にたての葉を
恋う様に集めていくのです

私はいつも暇ですので、秋に収穫するものもありません
だから毎日まいにち林に赴いては葉を拾います
ある日、幹はそれほど太くないのに背は高く、大きく梢を広げている木の根元で休んでいると
細長い橙の葉を散らしながら真っ黒な幹が言いました
「なぜ君は葉を集めるのだ」と
「葉たちがかわいそうだからです」と私は答えました
「君がしているのは墓場から骨を持ち出すのと同じだ、今すぐやめた方がいい
彼らは葉緑素を失って、あとは大地に眠るだけの存在なのだ
眠ることにだって意味はある、そう思うだろう」と木は言いました

私は何も言えませんでした
両腕でしっかり落ちないように抱えていた落葉を
そっとその木の根元に置いて帰ってきました
私は知っていたのです、落ち葉が林に絨毯のように敷き詰められて
少しずつ彼らは雨風に崩れていき、やがて雪の下に眠る
春が来て雪が解けていくと、彼らは生まれたての土になっているのです

私は今まで集めていた葉を持って先ほどの木の所へ行きました
麻の袋から彼らを取り出して置いて帰ろうと思ったら
さっき落ち葉を置いたところに紅と黄の混じったような色の玉が置いてありました
私は持ってきた落ち葉を置いた後、その鮮烈な色をした玉を拾って麻の袋に入れました
触ってわかったことには、それはとても温かい玉なのでした

秋が来ると、山は燃えていきます
それは比喩でも何でもなくて、本当に火が起きているのだと思います
生命の灯火が消える前に生きていた証として炎を全身で表現しているのです
寒さが厳しくなっていく秋の夕暮れのなかで眺める林の木々
ぼんやり照らされる紅黄葉に、ほのかな温もりを感じながら
小さな胸にあたたかいものを、ひとつ抱いて私は帰ります


自由詩 あたたかいものを、ひとつ Copyright 木屋 亞万 2008-11-16 00:34:50
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