音速の壁
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風のような人だったから
劇的に目の前に現れて
戯曲のように去っていった
ただそれだけのことなのに
最近体調が優れないせいか
秋の夜が長すぎるせいか
周回遅れの孤独なレース
巻き返す手段が見つからないよ
きっと二人は最初から違う空を見ていて
ただそれぞれの目的地へ歩き出しただけ
どんなにスピードを上げても届かない
当たり前だった頼もしい背中には
枯葉の敷き詰められた遊歩道も
家から五分のプラットホームも
「淋しい」なんて形容しなかった
思い出は日々薄らいでいく
変わりなさいと町並みは急かす
自分だけが取り残されたみたいで
張り詰める空気の冬の朝に
願いのような独り言を呟いた
きっと二人の間には見えない壁があって
声が届かないのは離れたせいだけじゃない
どれくらいスピードを上げれば追い越せるかな
素直じゃなかったあの頃の自分を
クラッシュしたレーサーが走馬灯の中で
思い返すのは輝いた栄光の日々
激しい痛みの中で一枚一枚
消えないように焼き付けていく
あともう少しだけ走る力があれば
ためらわずに捨てられる気がするんだ
きっと二人は最初から違う空を見ていて
ただそれぞれの目的地へ歩き出しただけ
どんなにスピードを上げても届かない
当たり前だった頼もしい背中には
きっと二人の間には見えない壁があって
声が届かないのは離れたせいだけじゃない
どれくらいスピードを上げれば追い越せるかな
素直じゃなかったあの頃の自分を