夜を歩く
オイタル

胸まである雑草を分けて歩いた。
蒸し暑い夜だった。
夜だったが妙に明るい。
藪を抜けて
野球場に出た。
グランドに白い照明があたっている。
白いシャツの男達が集まっている。
新しい野球チームを作るらしい。
死んだはずの男が混じっていた。
ずいぶん世話にもなったのに
不義理を重ねた人だった。
やあこれはと元気そうだった。
大きな目で
黒い額で
縮れた髪で
歯の抜けた口を手で隠して
ぎょろりと笑っていた。
「あなたは確か死んだはずだが。」
というのもはばかられて
「晩年は苦労もしたそうだが。」
とはいよいよ言えなくて
久しぶりの近況などつきまぜて笑ってもいたのだが
(死んだものに近況があるのか、ないのか)
やがて
彼が死んだことも忘れていた。

時折こちらを見ながら
男たちは長く話し込んでいた。
明かりの下に
虫たちは雪のように群がった。

名残は惜しかったが
いかなければならない。
彼らと別れて
バックネット裏の道を通って
グランドを離れた。
一塁側のベンチから
笑い声が上がる。
両脇で
背の高い草がゆれる。
右手でとがった葉先を千切り
二、三度振って夜へ捨てた。
空の高いところ
渦巻く闇の岸辺を
沖のほうへ
強い風が吹いた。


自由詩 夜を歩く Copyright オイタル 2008-11-14 21:53:34
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