正体不明の嘘がとても嫌いだ
結城 森士

正体不明の嘘が嫌いだ。
言葉を並べ立てて嘘をつく、政治家とか、弁護士とか、大嫌いだ。



抽象的だとか、混乱しているだとか、曖昧だとか、定義付け出来ないだとか、そんな、そんなものが大好きだった。
混ざり合うものだとか、整理出来てないものとか、混乱とか、破綻とか、そんなものが大好きだった。



そこに意味があると思っていたし、真実はそこにしかないって思っていた。
モリッシーが言っていた。
「ボクは誰一人として置き去りにしたくない。仲間はずれになんかしたくない」
俺もそう思っていた。誰一人置き去りにしたくない。



整理しているやつが嫌いだった。割り切ってしまった人間が憎かった。
仕方ないよ。そんなものだよ。そういうことを言って傍観している連中が大嫌いだった。



言葉が嫌いだった。定義づけが嫌いだった。整理することも順序だてることも嫌いだった。
理論武装しない人間、無防備な人間、弱さをさらけ出す強さにあこがれた。


シェイン・マガウアンが言っていた。
「上品な貴婦人も、道楽者の男たちも みんな来いよ みんな来いよ」
みんな来いよ。誰もかも、全員が、おいでよ。
楽しくパーティー騒ぎをしようぜ。誰もこばないよ。全員、おいでよ。全員、楽しく騒ごうよ。
大好きだった。そういう、人間になりたかった。



何故だろう。
そういう人間はみんな、人生に敗退していくんだよ。
何故だろう。何故、俺たちは敗退して、人生の幕からひっそりと退場していくんだろう。



「僕には感情があって精神が無い」
僕には感情があって精神が無い。
イアン・カーティスが言っていた。
「今、この瞬間さえ、生きていたことを後悔している」
そう言って
誰よりも高潔だったイアン・カーティスは
誰よりも惨めに自殺した。
どうして?教えて。
知っている。答えは無いから、みんな、耐えていくんだよね。みんな、か。



正体不明の嘘がとても嫌いだ。
僕も、嫌いだ。


言葉さえなければ、嘘なんてないのに。


でも整理しよう。
整理しよう。曖昧とか混沌とか、混乱とか無秩序とか。
僕はそういった全ての幻想を捨てよう。
整理しよう。
そして

全て捨ててしまおう。

変われない原因を
全て捨ててしまおう。


さようなら、皆捨ててしまおう。
変わらない原因を
全て捨ててしまおう。




ごめんね。僕は思想よりも
現実の友だちを救いたいから。





モリッシーは菜食主義者だった。
「肉食は殺戮だ。クリスマスに七面鳥で楽しくパーティー?それは殺戮だ」
そのとおりだ。でも、生きていくことは殺戮していくことだ。七面鳥の断末魔を聞きながら楽しくパーティーするしかないんだよ、モリッシー。


正体不明の希望も嫌いだ。
正体不明の理想も嫌いだ。


現実だけを見よう。でも、正体不明の理想郷の中に、きっと真実があると信じることだけは止めたくない。


正体不明の嘘がとても嫌いだ。


散文(批評随筆小説等) 正体不明の嘘がとても嫌いだ Copyright 結城 森士 2008-11-14 09:09:38
notebook Home