夏
渡邉建志
わたしは言った
「あなたのことがすき」
彼女は夏のような目を開いた
ただ、セミが潮騒みたいに鳴いていた
緑がざわざわ動いて、そのむこうのとぎれとぎれの空もいっしょに動いていた
祠の向こうの神さまだけがじっとしていた
あなたはなにもいわずに、夏のような目を目の前の夏に向けていた
わたしはあなたと空を交互にみて、だまって待った
わたしは心のなかで100からカウントダウンを始めた
あなたはなにもいわなかった
ついに0になって
わたしは思わず
「ねえ」
といってしまった
あなたは
しずかにうなずいて
夏のような目をゆっくりととじた
木の上の夏もまた
その大きな目をとじはじめて
気がつくと
雨が降っていた