傍らに明かり/
結城 森士
木々は空の下で動かず
静寂は燐と張り詰める
僅かに震える街灯の光は
夜となって歩道に落とされる
昼の間、風と共に遊んでいた白い雲は
いつの間にか隠れてしまった
暗闇の中で研ぎ澄まされる
私の耳は
街灯に群がる虫の翅音だ
信号が瞬きをする間に
車たちは光の帯となった
横断歩道で待っている人間は
空の下で何重にも、何重にも
蠢いている
その傍らで
行き先も分からずに
走り去った光たち
私の目は
消滅していく燐光だ
蛍光灯に導かれ
死に絶えていく
翅虫だ
8階建ての、細長いビルの、接触の悪い蛍光灯が
螺旋の階段の上で、チカチカと瞬いている。
私は7301教室を抜け出し
右手に持っていたシャープペンシルを
階段の螺旋軸の中心に落とした。
小さな細長いビルの7階から落とされたそれは
当時の淡いおぼろげな感情と共に
闇へ吸い込まれて消えた。
音もなく
元々存在しなかったように
何かが失われていく
それら一切は
全て居心地の悪い
その夜の中にあったのだ