指定席
木屋 亞万

授業を終わらせるチャイムが僕らに
仕舞い支度を促し、先生は
名残惜しそうに黒板の裾に触れて
開いた小さな穴へと3色の
チョークをぽとりぽとりと落とす

号令にやる気なく起立する僕らは
椅子と机の間が狭すぎて直立できない
物と子供らが押し合い窮屈な教室から
僕らはランドセルを棚から取り出して
だらけた足で逃げ出していく

僕らは縁日の金魚みたいだ
雑多な物に紛れていることと
実質的に水槽より教室が狭いことを思うと
和金の方がずっといい暮らしだ
それでいて綺麗な赤と白の肌
赤白黄で濁った僕らはどうしても醜い

金魚に帰る自然はないそうだ
もっと広いところで一日を過ごしたい
と思ったところで
金魚には水槽しか世界ではない
狭く雑多な水槽の中に指定席がある
自由席はないので強制と言ってもいい
僕らと本当に同じだ

水槽から抜け出せた金魚は
もう少し狭い水槽に移る
ゆとりもあれば装飾もある
でも狭い、狭すぎるのだ
川や池に比べると遥かに
直方体だろうが球体だろうが
金魚は思い切り走れない
ただ小回りをきかせ小走りする

僕らはだらけた足で塾へ向かう
お腹が空いて唾液がスナック菓子を想う
胸骨の狭間に自我の死骸を溜めて
僕らはまた勉強をする
学校より無機質で洗練されているけれど
やはり狭い直方体の塾の教室

席は基本的に自由なのだが
各々座る位置は自然と定着していて
窓際の隅が僕の指定席だ
教卓の前にはポニーテールの
赤更紗の金魚みたいな
赤いカーディガンと白いシャツを着て
魚みたいな曲線のシルエットで
口をぱくぱくさせてドーナツを食べている

狭い水槽の中は鬱屈としていて
虐めあい、おとしめあう僕らがいる
でも僕らは金魚ではないから
いつかは抜け出せるだろうと思う
ポニーテールのあの子と
水槽の外へ行きたい
どんなに自由な指定席でもいらない
もう座っていたくはない
胸骨を瀕死の尾びれが蹴った


自由詩 指定席 Copyright 木屋 亞万 2008-11-13 01:15:34
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