指定席
小川 葉

 
僕らは
指定席とよばれる
ひとりずつ与えられた席にすわって
ときには時速三百キロメートルを超える
レースドライバーのように
ふと孤独の恐怖に気づいたかと思えば
またすぐに慣れてしまって
新幹線の指定席から
車窓をながめてる
過ぎてゆく
街の景色で暮らす
ひとたちはひとの数だけ
あたえられた命の指定席で眠り
ときにははたらき
ときには笑い
ときには傷つき
そして泣いてしまう
こともある
指定席から指定席へ
バトンのように届けられる
愛もある
なんでもある
指定席は指定されてるから
選ぶことはできないし
拒むこともできなかった
わたしたちはいつか
その席を立ち上がるまで
荷物をまとめて降りてゆくひとたちの
席がまだあたたかいうちにも
誰かがすぐにすわるのだ
遠い駅でその席を
予約してくれた父と母が
まだ産まれていない僕ののことを
待っている
そこにはながいあいだ誰かがすわりつづけ
ひとつ前の駅で降りたばかりなので
まだくぼんでいて
あたたかい
僕が産まれてすぐに亡くなった
ひとのことは覚えてないけれども
そのぬくもりだけは知っている
そのひとが
産まれて生涯すわりつづけた
その席が
僕の命の指定席になったので
顔がとてもよく似ている
 


自由詩 指定席 Copyright 小川 葉 2008-11-12 23:11:41
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