ノクターン
乱太郎


第一楽章


    ホ長調の音符引き連れた春が
    草原に咲く
    いつか播いた喜び
    これから花開く出会い

   朝靄去って
   ピアノに向かっている君
   瞳の奥に春の日差しが

   日向で昼寝する子犬

   たんぽぽの種が一斉に歌う


第二楽章


    虹の向こうに

   君が本を片手にうなずいて
   澄んだ青色になったとき
   僕は自分が恥ずかしくなって
   ほんとうの空を見上げてしまった
   君はそこに!
   鳥を誘い!
   風とともに!
   くちびるから漏れる
   白い音符!


第三楽章


   夕刻西の空
   太陽が燃やしているのは
   迷い

   人を迷わす赤色

   君の本当の姿を知らないのかもしれない
   僕の中にいる君は君でないのかもしれない
   それでも
   やはり君は君であって::::
   一番星と一緒に
   君の声がする

   ひとつ
   ふたつ
   輝きがさらに輝いて


第四楽章


   夏の日の蝉時雨

   公園の噴水で水浴びしている子どもたち

   恋は一輪の花
   水を差すのを忘れないで
   と 言っているようで

   君が歩く
   その線はまっすぐに伸びている
   そう思えるから
   信じてみたい


第五楽章


   月光に濡らされる雫
   躊躇いもなく
   純粋に濾過される無色な水になって
   鳴り止まない響きが
   胸の奥で眠っている湖を探り当てる

   :この静けさは::
   ::::この戸惑いは:::
   ::この落着きの無さは:::
   岩盤の隅に生えている苔に笑われている

   君の風はいつも優しく
   歌声が聞こえてくるようで


    秋の日の一夜
    君が消えることはない


自由詩 ノクターン Copyright 乱太郎 2008-11-12 17:15:28
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