凪いだ8月
霜天

蝉が時雨れている8月の
呼吸がぴたりと止まる時がある
子供達は公園でぶら下がっていて
突然の静寂にゆれている

初めてついた嘘はどこへやったかと
懐かしい引き出しをひっくり返すと
初めてのラブレターの
返事が落ちてきて
遠回りな言い方でごめんなさいと書いてあった
心音が寄せて、引いて
もう一度寄せたところで
蝉の声が帰ってくる


町の防災無線からサイレンが響いて
慌てて黙祷をする
もうそんな時期だ
目をあけると
蝉時雨がやんで
風がやんで
心の平面が、ゆれた
もう、そんな時期だ


いつまでも蝉の声が帰ってこない
坂の下の雑木林はゆれることもない
子供たちは夏の公園でぶら下がったまま空を見ていて
君からの手紙はサイレンの中届く
教わった通りの黙祷じゃなく
うつむいて目を閉じた
自分に嘘をつく
そんな時期だった


さざ波も立たずに
いつまでも動き出さない8月に
サイレンの余韻が
繰り返し響いた


自由詩 凪いだ8月 Copyright 霜天 2004-08-05 16:34:43
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