無味
ヨルノテガム



ゴミゴミした宇宙の中で、いや
わたしの部屋の中で、いやらしいパンティーをカラスがくわえて
去っていったっきり、6月なのに雪が降ったり、
猫が炬燵を探し疲れて居眠ったりする
ハート型の天罰が夜明けに下って寝起きは午後三時に始まりだす
四角物小と三角物小が転がりだすことなく、
名前をこれといって決めることなく、在る。

美しいという型にはまった言葉がわたしの感情から嫌われている
ビニール袋■折りたたみ傘■ゴミ箱■脱ぎ置かれた衣服■椅子、
あらゆるものに造形が構えられ わたしのちょっかいを
行儀よく思慮深く待ち続けて佇む 靴下の洞窟へは昨日探訪して
戻って来た 水面から湖面からへと伸びる水草の根の生命力は
愛という言葉の生命力と等しく思える わたしは愛について
よく知らないの、チャチャ、ですが。

散歩する朝を思い描く行動的な主人公像と
部屋から一歩も出ない物書きの眠らない朝を演じる道化役の不在。
座られない椅子を前にあたかもが何処かをシェイプアップ、スマートに
仕上げて見せることに目的と過程と結果は費やされる羽目に、

喜びがのろのろお辞儀をして、うなじを逆さまに見つめてしまったわ
と、声は出さずとも辻褄は人生のスパンの中で記憶と頭のいい人の中で
つながり編み込まれていくはずよと、チャチャ、もう一日が一時間
ばかりで過ぎ過ぎていくわと彼は言った、その彼を思い出せないわを
ぼんやり、オレンジの飴玉が朝の目線の太陽だったなんて。
始まりのようでとても苦しい、それ、これ。
こんなの続けてらんない、と

水が女に浸かる、聞き間違いと気ちがいの語呂は似ていますわねと、
裸の女の入浴を想う尻は揺れるがそれは女肌のスーツを着込んだ
別の生きものに思える、せめてヒョウだとかチーターとか淡雪が
中に仕組まれていなくては、もう何だか水音にしか癒されなくなり
女へ伸ばした指先がひどく冷たい入浴水であることに驚き、惑い、
ためらいそれでも魔術は始まるわけだが熱い、熱いのは、チャチャ、

浴槽から立ちのぼった尻を高音のレの音で打ちのめす
女はミを叫ぶ










自由詩 無味 Copyright ヨルノテガム 2008-11-11 05:49:40
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