書簡−極数のはてに−
構造
祝祭についての言句ありがたく頂戴しました。
安穏と甘美をともにして
やわらかな萌える緑のもとでささらと流れる清水に
お互いにそっと口をつけて冷涼とその固さを愉しむ
あるいは龍田川のおだやかな流れに溜まりゆく紅葉をながめ
しずんでいく執心をまさに天然としてあきらかにする
そういったことも祝祭としてよいのかもしれません
それもみやびごとしてはよいでしょう
にぎりしめてしのぶのもこえとため息にあらわすのも
いずれもむつみのうちで正邪はありません
ですがそういうことについて語るまえに
ごく乱暴に申し上げれば、まつるとは共有ということでしょう
つまりはともに安楽したうえでわらいながら狗を蹴り飛ばし
荒みごとをやってのけるという按配です。
すくなくとも耳もとで風が鼓膜を膨らませるかの瞬間に
あるいはあの山吹の花びらがひとつひとつ眼球にぶつかって
黄色の疼痛が走るような瞬間に
すうと僕は息を吸い取り逃がさないよう邪鬼どもを腹に閉じ込めたうえ
それらの感覚をすぎさりゆくものと念じたうえ
不動明王の憤怒をにらみつけたのです
そこにうかんでいるもの
たしかにそれは木の年輪でありこわばった筋肉と血管でした
かの宝剣がふりおろされ
ぼくの骨繊維が乱暴に断裂する瞬間を想像すると
わかるということがまさに致命的なまでに明らかなことであり
み仏の業としてはたしかにありえることのように思えたのです
はぁと息を出して解放されようという瞬間に
ぼくは意識を朦朧とさせて
たくさんのこんにちはがあふれていました
おそらくこれらの痣は何に紛れ込んでいるのかと想像するに
それらはじまりの言葉そのものに潜伏し
沢山の発疹を僕の肌にきざむのをまちのぞんでいるということです
それではさようなら
ぼくは恒河沙のつぶを数えつづける作業に戻るとします